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国際連帯税とは?
国際連帯税は、国境を越える特定の経済活動に課税して、貧困や環境、感染症などのグローバルな課題に取り組むための資金を調達する国際的な税です。
どんな種類の税があるのか?
すでに実施されているものとしては、国際航空券税(フランスなど十数カ国以上で導入済)があります。通貨取引税(トービン税)や金融取引税(通貨取引税を含む金融の取引全般への課税)につての議論も近年かなり盛んになってきました。他にも、環境税、航空輸送税、海上輸送税、武器取引税、地球公共財利用税(例:海峡通行税)、多国籍企業税といった具合に様々な課税システムの提案が行われています。
集めた資金はどう使うのか?
前述した国際航空券税によって集まった資金は、フランスなど5カ国が設立した国際医薬品購入機関(UNITAID、ユニットエイド)に集められ、途上国における三大感染症/エイズ・マラリア・結核の治療普及の支援に使われている。医薬品の長期的な大量購入、及びジェネリック薬の供給拡大によって価格低下・供給量増加などの実現をはかり、途上国での医薬品利用拡大の促進につなげている。
ネットワーク
【NGO】
国際連帯税フォーラム
国際連帯税の導入に向けて、発展的な活動をおこなっていくために設立されたNGOや労働組合といった団体から成る組織。2011年6月25日に設立。日本リザルツからは白須事務局長が代表理事として参加。
国際連帯税を推進する市民の会(アシスト:Association of Citizens for International Solidarity Taxes)
国際連帯税に対する市民の合意を幅広く形成していくための議論の場として2009年4月4日に設立。主に市民の個人参加により運営されている。
【国会議員】
国際連帯税創設を求める議員連盟
2008年2月28日、国際連帯税の推進を目的に設立された日本の超党派の議員グループ。
【国際組織】
開発のための革新的資金調達に関するリーディング・グループ
国際連帯税など革新的資金調達を国際的に推進していくために2006年3月1日、フランスやブラジルなど38カ国が集まって設立。日本政府も2008年9月に加盟。現在77カ国(オブザーバー国18カ国含む)が参加。
リザルツスタッフが考える国際連帯税とは?
“国際連帯税についての一考察” 佐藤吉寿(会計担当/税理士)
I. はじめに
平成22年度税制改正大綱、4.国際課税の中の一項目に「国際連帯税」として、次のような記述がある。「国際金融危機、貧困問題、環境問題など、地球規模の問題への対策の一つとして、国際連帯税に注目が集まっています。金融危機対策の財源確保や投機の抑制を目的として、国際金融取引等に課税する手法、途上国の開発支援の財源確保などのために、国境を越える輸送に課税する手法など、様々な手法が議論されています。既にフランスやチリ、韓国などが航空券連帯税を導入するなど、国際的な広がりを見せています。わが国でも、地球規模の問題解決のために国際連帯税の検討を早急に進めます。」 本稿はこの国際連帯税について、若干の考察を試みるものである。なお、グローバル・タックスという用語を便宜上、国際連帯税を含む広義の概念として使用することとする。
II. グローバル・タックス
周知の通り、租税には1.公共サービスの資金の調達、2.再分配、3.景気調整といった機能があり、本来の機能である公共サービスの資金の調達他、高度に複雑化した現代の経済社会においては、富の再分配機能及び財政の一環として景気調整といった重要な機能を果たしている。国際連帯税(グローバル・タックス)も大綱で列記されている地球規模で深刻化する諸問題への対策手法として、租税のこれらの機能にその有効性を見出している訳であるが、その特徴は概ね次の記述に示されている。「すなわち、以下の三点でグローバル性を持つ租税のことをグローバル・タックスと定義する。その第一要件は、課税対象となる経済活動が国境を越えていること。第二の要件は、その税収の一部又は全部が国際公共財供給のための財源調達手段としての側面を持っていること。最後に第三の要件として、課税主体が単一の国家だけではなく、複数の国が共同して課税したり、超国家機関が課税する租税だと言う点を挙げることができる。」(1) 現在までのところ、これらの要件すべてを満たす真のグローバル・タックスは存在しない。しかし、グローバル化する社会・経済に対し、グローバル性を持つ租税の必要性は高まるはずである。
一例を挙げる。グローバル・タックスの多様な手法(2)の中で多額の税収が見込めるのが、通貨取引税(あるいは通貨取引開発税)である。これは「全ての外国為替取引に低率の税を課す」というもので、その起源は1970年代にノーベル経済学賞の受賞者であるジェームズ・トービンが考案したトービン税であり、変動相場制へ移行した当時の国際通貨体制のもとで、為替相場の急激な変動を抑制し、各国の経済政策の自立性を確保することを目的としていた。つまり元々は、税収よりもむしろ規制面にその狙いがあったとされるが、その後、1990年代に入りこの通貨取引税(CTT)は、MDGs(Millennium Development Goals)「ミレニアム開発目標」(3)財源として政府開発援助(ODA)に加え、途上国への革新的資金源になりうる、今日の金融・経済危機を招いた投機資金の暴走規制の政策手段ともなりうる、と言った点で再評価され、現在もその導入への議論は各方面で活発に行われている(4)。
III. 航空券連帯税とUNITAID
現在、国際連帯税として実施されているのは航空券連帯税のみである。この税は2006年7月にまずフランスで導入され、現在実施国は世界12カ国(5)、概要は次の通りである。課税権は実施する国にある。実施国の空港から離陸するすべての航空会社に課税され、航空会社は当該国によって定められた税を航空券に上乗せして徴収し、政府に支払う。税率や課税方法、税収をどの程度国際公共財への提供の為に拠出するのか等は各国の任意である。航空券連帯税の実施に伴い、その税収の受け皿としてUNITAID(国際医薬品購入ファシリティ)(6)が創設されている。この組織は航空券連帯税の税収を主財源に、WHO,UNICEF,世界基金、クリントン財団等(10団体・2009年)のパートナー組織への資金投入をとおし、世界の三大感染症(HIV/AIDS・マラリア・結核)の医薬品や診断薬を大量かつ長期的に発注・購入することで、これらの価格を大きく下げ、途上国の貧しい人々の治療へのアクセスを大幅に向上させることを目的としている。
ところで、航空券連帯税は前述のグローバル・タックスの定義のうち、第三の要件は満たしていない。しかしながら、以下に掲げるような事柄を理由として、その存在意義は決して小さくはない。国際公共財の供給目的に各国のODA予算や国際機関への国別拠出金からではなく、租税(間接税)という継続的かつ安定的な財源を用いることができることを世界で初めて示した。�税というものを、国民国家の範囲を超えたグローバルな規模での受益と負担との関係の中で考える必要性を提起した。� この枠組みの下ではすべての国がドナー国になることが可能であり、「援助供与国ー援助受益国」や「先進国ー途上国」といった政治的・経済的分断を越えた水平的パートナーシップの構築可能性を示唆している。
IV. 国際人道税構想
わが国で国際航空運賃への消費税課税の構想は、金子宏東京大学名誉教授の国際人道税という名で記されたエッセー(1998)(7)が始まりである。国際人道税の構想は、国際航空運賃に定率の消費税をかけ、わが国の消費税制として、国内航空運賃との消費中立性の欠如を多少なりとも是正しつつ、その税収を適当な国際機関に転送し、国際機関の手で民族紛争、宗教紛争、部族紛争などで飢餓に苦しみ、あるいは心身の障害を受けた児童や乳児の救援に充てるというものである。既に実施されている航空券連帯税とはその制度や手法等に相違点が見られるものの、税収を国際公共財供給のための財源としていること等、その発想や目的とするところは基本的に一致しているものと考えられる。
教授はその構想の中で、「国際航空運賃に対する課税は国家の領土主権の外で行われる消費行為であるから、その税収はこれを徴収した国の歳入とされるべきではなく、国際社会のために使うべきである」(8)としている。すなわち、国境を越える経済活動自体を課税の対象とした税収は国際社会に帰属し、国際公共財供給の財源に充てられるべきもの、と解すことが出来る。グローバル化の進む今日の世界において、常態化する貧富の格差や環境問題を否とするならば、お題目でない国際連帯の意識が必然になっていることは言を俟たない。先進国ー途上国といった伝統的既成概念を越え、互いをパートナーとして連帯する国際社会の構築に国際連帯税が貢献出来るとすれば、それはまた新たな時代へ向け、租税が担うひとつの役割を示唆しているとは考えられないだろうか。
V. むすびにかえて
「大災害には金が集まるが、貧困には金は集まらない」と言われることがある。幸いにして大災害には見舞われなかったが、必要最低限の医療が受けられずに、いわゆる世界三大感染症で命を落とす人は年間数百万人とも言われている。必要なのは安定した財源と実効性の高い分配である。世界の貧困問題への取り組みは近年、ODAに加え、マイクロクレジット(マイクロファイナンス)、ソーシャルマーケティング、BOP(Bottom of the economic pyramid)ビジネス等、様々な手法が認知されているが、航空券連帯税とUNITAIDのような租税による国際貢献の優位性は、実効性の高い分配とともに、何よりもその持続性のある安定的な財源という点であろう。
現在の航空券連帯税の課税権は各実施国にあり、その使途も各国の任意である。しかし、航空券連帯税に限らず将来的な通貨取引税の導入においても、国際連帯税として国境を越える経済活動を課税の対象とする以上、前述の国際人道税構想における税収の帰属と分配についての考え方は、その基本原則とすべきものではないかと思う。国際連帯税の導入では未だ検討の域を出ていないわが国であるが、折しも本年12月には国際連帯税リーディング・グループ総会(9)がわが国を議長国として東京で開催される。ODAの補完でも代替でもない、国際連帯税として租税を財源とする国際貢献手法に固有の意義を明確に示し、わが国でもその導入への積極的な姿勢を期待したいと思う。
『国際財政論』「第9章グローバルタックス」諸富 徹 有斐閣2010年
本文中に記載のあるものの他、環境税、地球炭素税、武器取引税、海上輸送税、多国籍企業税等がある。
MDGsは2000年9月国連ミレニアムサミットで採択された「国連ミレニアム宣言」のうち、特に開発と貧困の課題に焦点をあてて策定された。これは1990年代を通じて提起されてきた様々な分野の目標を統合し、2015年までに達成すべき数値目標を提起している。なお現在までのところ、全体としてその達成は資金面も含め、困難な状況とされ、2000年時点で目標達成には毎年500億ドルの追加資金が必要と試算された。
『Globalizing Solidarity: The case for Financial Levies』 Innovative financing to development fund leading Group July 2010
ブラジル・ブルンジ・チリ・キプロス・韓国・コートジボワール・フランス・ガボン・ヨルダン・マダガスカル・モーリシャス・ニジェール。(2010年7月現在)なお、フランス他数カ国では国内線にも課税。※わが国で仮に国際線利用者に航空券連帯税をフランス並に課税した場合、年間約423億円の税収と試算される。(2007年の国際線利用者5,831万人、エコノミー利用者が95%、税額をエコノミー500円・ビジネス5,000円と仮定して試算)利用者数は「国土交通省の航空旅客数推移」参照。
現在加盟国は29カ国とゲイツ財団、7億ドル以上が2006年9月から2008年12月までに集まり、うちの70%以上が複数国からの航空券税収入。既にこの分野で活動している世界基金、UNAIDS, UNICEF等の補完的役割を果たしている。
「Proposal for International Humanitarian Tax-A Consumption Tax on International Air Travel」Hiroshi Kaneko Tax Notes International Dec14.1998
「人道支援の税制創設を」金子宏(経済教室 日本経済新聞2006年8月3日)
正式名称は「開発のための革新的資金メカニズムに関するリーディング・グループ 」第8回総会。
この総会には毎回、政府30ヶ国以上、その他関連する国際機関やNGOなどが参加する。この「リーディング・グループ」は2006年に発足し、現在は59カ国が加盟。日本は2008年9月正式加盟。国内的な国際連帯税をめぐる動きは、2006年5月「東京国際セミナー2006:新しい開発資金メカニズムを考える」がNGOと日仏会館フランス事務所と開催され、その後、「国際連帯税創設を求める議員連盟」が2008年2月、「国際連帯税を推進する市民の会」が2009年4月4日、「国際連帯税推進協議会(通称:寺島委員会)」が同月20日にそれぞれ設立された。そして、政府税制調査会での検討や外務省からの国際連帯税への要望等を踏まえ、冒頭の平成22年度税制改正大綱に至っている。
平成22年10月 東京地方税理士界「論壇」に掲載。